介護事業は国が定める介護報酬制度の枠組みの中で成り立っている事業であり、現在の財政状況から鑑みて今後、報酬が大きく上昇する可能性は低いと言えます。したがって、介護職員の給与が大幅に増額される見通しは厳しいと言わざるを得ません。
しかしながら介護職員の離職率が上がらないようにするために、国としては各種加算制度を設け、待遇改善に取り組んでいるのも事実です。
介護職における大阪府の有効求人倍率(2019年11月)は5.70です(東京都7.39、愛知県6.77、奈良県5.87,岐阜県5.80に次ぐ全国5番目)。
一方で大阪府の2015年と2025年(団塊の世代が75歳を迎える高齢化のピーク)での高齢者人口比は1.44倍と(埼玉県1.56倍、千葉県1.52倍、神奈川県1.48倍、愛知県1.45倍に次ぐ全国5番目)、今後介護職の採用はますます厳しくなることが予想されます(出所:厚生労働省「福祉・介護人材確保対策等について[PDF]」)。
このような状況から、介護事業継続には職員の新規採用よりも現在の職員の定着率を高めることに重点を置くべきだと考えられます。
今回は、職員の定着率を高めるための施策についてご紹介します。
介護職員の退職理由として考えられるものとして、以下のようなものが考えられます。
シフト業務や休日が合わない等、介護職特有の事情もありますが、賃金や評価に対する不満が退職理由の背景にあることがうかがえます。限られた予算の中で職員の不満を緩和し、定着率を高めるためには、賃金の分配方法や職員の評価方法を見直すことが肝要です。
次のセクションでは、賃金制度設計の考え方についてご紹介いたします。ご参考いただければ幸いです。
施設にとって辞めてほしくない人とは、どのような人材でしょうか。
スキルが高い人はもちろんですが、夜勤や休日出勤を進んで引き受けてくれる人にも辞めてほしくないはずです。まず、このような人材に対して給与を手厚くする必要があります。
手当によって調整すると、基本給に応じて計算される賞与に反映できないため、基本給に差を付けるほうが職員の満足度が上がります。
一方で、「介護業界に興味はあるけど、夜間や休日のシフトに入りたくない」という人もいます。
このような人たちのために「基本給は低いが勤務形態を限定する」という職員区分を設定し、受け皿を用意することで、新たな人材が介護業界に入りやすくなる効果も見込めます。
職員区分 | 勤務形態 |
---|---|
正職員A | 勤務形態に制限がない人 シフト変更が可能な人 |
正職員B | 勤務形態に制限がある人 例)早出・夜勤・休日出勤等ができない人 |
正職員C | 育児、介護等の理由で本人からの申し出により勤務時間を変更(時短勤務)している人。 |
号俸 | 一般職 | 管理職 | 経営職 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
指導が必要 | 1人前 | 指導職 | 課長職 | 次長職 | 施設長 | 部長 | |
1 | |||||||
2 | |||||||
3 | |||||||
4 | |||||||
5 | |||||||
6 | |||||||
7 |
ノーワーク・ノーペイ、すなわち「働いた分は賃金を支払う、働いていない分は賃金を支払わない」ということは、労務管理の大前提です。理由もないのに遅刻や早退をしても給与が減らないという取扱いがされるようになると、時間を守って勤務する人が結果として不利益を受けることになり、不平不満が蓄積するだけでなく、職場の規律が緩むことにもなります。
また、就業時間前の準備や就業時間後の後片付け、ミーティングやカンファレンスの時間も使用者が義務付けているのであれば労働時間に該当します。これらに対して適切な賃金を支払わないことは職員の離職要素になるだけでなく、訴訟等のリスクにもつながるため注意が必要です。
「うちは小さい組織だから」と曖昧にせず、ルールをきちんと守る・守らせることが定着率を高めることにつながります。
職員への賃金には、大きく分けて①給与、②賞与、③退職金の3種類があります。これらをどのように組み合わせるかも賃金制度を考えるうえで重要な要素となります。
介護職への就職希望者の多くは、毎月の給与額を基準にして就職先を選定します。その意味では、他の施設と比較して見劣りのしない給与を提示することが最優先といえます。
そのうえで、定着率を高めるための工夫が昇給、賞与、退職金です。
長く働くことで給与が上がる、施設に貢献し売上が伸びることで賞与が増える、退職時にまとまった退職金がもらえるといったことで職員が同じ施設で働き続けるモチベーションが高まります。
他方、経営側の観点からは、経営状況に応じて臨機応変に賃金の分配を変えられるほうが望ましいと言えます。その意味では、個人成績や法人全体の業績に応じて調整しやすい賞与の割合を増やすのがよいでしょう。
逆に退職金制度は、将来の費用負担が重くなりますし、仮に後から廃止する場合には清算が必要になるケースもあります。導入は慎重に検討すべきですし、導入を決めた場合も中小企業退職金共済や確定拠出型年金の利用など経営への影響を抑える方法を考えるべきです。
今回は賃金制度設計の考え方を中心に介護職の定着率を高める方法についてご紹介しました。
弊社グループでは、介護事業所様の事業・組織・業務改革コンサルティングや人事制度コンサルティング等を行っております。
介護職の定着にお悩みの介護事業者様は、ぜひお問い合わせください。