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コラム病院・診療所の相続・継承対策 その(1)医療法人編

2023.06.30

長年、その地域の人たちに医療を提供してきた病院や診療所が、後継者の不在を理由に廃業してしまったり、事業承継時の相続税や贈与税を支払うための現金を用意できずに閉院せざるをえないケースがあります。

そうなれば、これまで通院していた患者さんにとっては、かかりつけ医を失うことになりますし、そこで働いていた人にとっては職場を失います。何より、その地域で医療を提供する機能が失われることになります。

そのような事態を回避し、これまで通り地域の方々の健やかな生活を支え続けるためには、病院・診療所を存続させるための相続・継承対策が欠かせません。

具体的にどのような対策を行うべきなのかは、医療法人と開業医(個人経営)でそれぞれ変わります。
今回は、医療法人の場合について見ていきましょう。

医療法人の基礎知識

相続・継承対策のお話の前に、まずは医療法人についての基礎知識をおさらいしておきましょう。

医療法人はまず大きく「社団たる医療法人(以下、社団医療法人)」と「財団たる医療法人(以下、財団医療法人)」に分けられます。厚生労働省の統計データ(医療法人数の推移 令和5年3月31日現在)によると、医療法人の総数は58,005、そのうち財団医療法人が362、社団医療法人の総数が57,643となっており、現状は社団医療法人が医療法人全体の大多数(99.3%以上)を占めています。

次に、社団医療法人は「出資持分のある医療法人」と「出資持分のない医療法人」に区分することができます。
「出資持分」とは、その医療法人に出資した人の財産権を表したものと言えます。
出資持分のある医療法人は、その定款に出資持分に関する定めが設けられており、出資持分の払戻しや、医療法人の解散時に残余財産の分配について規定されています。

平成19年(2007年)4月1日に医療法が改正され(第5次医療法改正)、この日以降に社団医療法人を新しく設立する場合は、出資持分のない医療法人しか認められないことになりました。
ですが、医療法改正前に設立された出資持分のある医療法人については当分の間、存続が認められる経過措置がとられています(これらは「経過措置型医療法人」と呼ばれることがあります)。

「出資持分あり」から「出資持分なし」の医療法人に移行することは可能ですし、現在、国は「持分ありの医療法人」から「持分なしの医療法人」への移行を、強く進めています。
なぜなら(詳細は後述しますが)、この出資持分の払戻しや相続が発生したときに、医療法人の経営に支障をきたし、その存続が危ぶまれる場合もあるからです。

そうなっては困るので、厚生労働省では移行計画認定制度などにより、持分なしへの移行計画を猛プッシュしていますが、先程の厚生労働省の統計データでは、(令和5年3月31日時点で)持分ありの医療法人数は36,844、持分なしの医療法人は20,799で、持分あり医療法人が社団医療法人全体の63.9%となっています。
持分なしへの移行は、あまり進んでいないと言えるでしょう。

出資持分のある医療法人の相続問題

では、出資持分のある医療法人で相続が発生したときに、どういうことが起こるのかを確認していきます。

持分ありの医療法人においての持分(財産)は相続させることが可能です。したがって、出資者が死亡した場合、その権利は相続人に移動します。ここで問題になりがちなのが相続税です。

例えば、評価額が10億円の持分がある出資者が亡くなり、その子どもが持分を相続した場合、相続税は約4億5千万円程です。
相続税は現金で納付しなくてはいけないので、この子どもにその額を支払えるだけの預貯金がない場合、医療法人から持分の払戻しを受けるしかありません。

一方、医療法人側も、資産の多くが不動産や医療設備で現預金が少ないという状態であれば、出資持分の払戻しに応じるために金融機関からの借入れや、設備の売却などで現金を用意する必要があり、医療法人の財務に影響を及ぼすことになります。

尚、出資持分の払戻しは、出資者が亡くなったときの相続税がらみに限らず、出資者が医療法人を離れる場合にも請求されることがあります。

出資持分のある医療法人の相続・継承対策

出資持分あり医療法人が相続・継承に備えて講じるべき対策は、大きく分けて2つです。それぞれについて、確認していきましょう。

1.後継者による納税の準備

今後も出資持分ありの医療法人を存続させつつ、医療法人の経営に影響を出さないようにするためには、出資者の後継者が来たるべき相続税の納税に備えて準備をしておくことが重要です。

それには、出資持分の評価額を試算し、必要な相続税の金額を想定し、納税準備預金等で計画的に用意をしておくなどの対策が必要となります。

2.出資持分のない医療法人への移行

出資持分なしの医療法人であれば、そもそも相続させる財産権がないので相続税がかかることもありません。
相続に限らず、出資者からの急な払戻し請求を受けることもなく、医療法人の安定的な経営が図れます。

とは言え、出資持分のない医療法人に移行するには、いくつかのハードルがあります。

まず問題になりそうなことは、出資者全員が自分の持分(財産)を放棄する必要があるという点です。
そして、出資者全員が持分の放棄に合意したとしても、次は「医療法人に贈与税が課せられる」問題があります。

出資者が持分を放棄することで、なぜ贈与税が課せられるのかという疑問の解説は本筋から逸れるので一旦置いておきますが、現在、国としては持分なしの医療法人への移行を進めたいということもあり、前述した移行計画認定制度により、一定の条件を満たすことで移行時の法人贈与税が非課税となる措置が受けられます。

ただ、一度持分なし医療法人へ移行すると、再度持分あり医療法人に戻ることはできませんので、どのようにするかは慎重に検討する必要があります。

持分ありのまま存続するのも、持分なしへ移行するのも、どちらにもメリット・デメリットがあり、それぞれの医療法人の状況によっても、取るべき対策は変わってきます。
いずれにしても、何も対策を行わないという選択肢はリスクが高そうです。

D&Mカンパニーでは、さまざまな条件を考慮し医療法人の事業承継を支援いたします。ぜひご相談ください。

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